このたびの第30 回日本肥満症治療学会の主題は「肥満症の積極的治療の方法と意義」とさせていただきました。
容姿としての肥満の評価は、個々人それぞれであり、また、時代によっても異なりますが、医学的には肥満は「症」であることは疑いのないところです。肥満の弊害は「メタボ」という言葉の普及とともにかなり広く知られるようになりましたが、糖尿病はもとより心血管疾患を含む多くの疾患の原因として肥満がどれほど大きな問題となっているのかということは十分には理解されていないように思われます。かつては、米国に行くと、それまで見たこともないほど肥った人が居り非常に驚いたものですが、そのような高度肥満が我が国においても見かけられるようになり、また、それを特徴として人気を集めている芸能人さえ現れ始めました。したがって、肥満の対策は行政面を含めて一層の強化が必要と思われます。
肥満の原因は過食と運動不足でありますが、高度肥満をそれら生活習慣の是正だけで治療することは非常に困難でありますので、しばしばフォーミュラ食、薬物療法、あるいは外科治療などの積極的な治療が必要となります。これらの治療は往々にしてそれぞれの治療法に特化した施設によりそれぞれ独自に行われているのが現状ですが、実際には単独の治療法で完結できることは少なく、究極的な治療法とされるBariatric Surgery であっても、その前後の栄養管理や心理的支援を含めた総合的な医療が供給されてはじめて意義ある成果が得られるものであるということが知られるようになってきております。
本学会は、肥満症治療を専門とする外科医、内科医はもとより、精神科医、看護師、栄養士、理学療法士、臨床心理士などあらゆる職種が一同に会してより良い肥満治療について検討する貴重な機会であります。今回の学術集会では昨今の話題である外科的治療を含めた積極治療の実際について集学的に検討できることを期待しております。 今回も、海外から2 名の肥満専門外科医がご講演下さることになっております。一人は昨年の本学会でも貴重な講演をしていただいた台湾国立大学のWei-Jei Lee 教授で、昨年に引き続き、Bariatric Surgery の豊富な経験について技術面を中心にご教示いただけることと思います。もう一人は、米国西海岸のBariatric Surgery では最も多くの症例を持つ外科医の一人とされるGregg Kaizo Nishi 博士で、技術面での講演のほか、術前術後の管理の重要性について、栄養面、精神面を含めたご講演をいただくことになっております。 また、特別企画およびシンポジウムでは高度肥満症患者の「社会的・心理的背景」「術後の問題点とその対策」「成因(遺伝子を含めて)」「治療の費用対効果」「栄養とその問題点」を取り上げました。
ご参加の皆さまの活発な討論により実りある学術集会として頂きますようにお願い申し上げます。